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大阪高等裁判所 昭和61年(ラ)489号 決定 1987年1月26日

抗告人(債務者) 破産者 株式会社備工

破産管財人 乕田喜代隆

相手方(債権者) 竹田増株式会社

右代表者代表取締役 竹田増蔵

右代理人弁護士 杉谷義文

同 杉谷喜代

第三債務者 株式会社サンケン・エンジニアリング

右代表者代表取締役 三好堯

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は「大阪地方裁判所が昭和六一年一〇月二四日なした昭和六一年(ナ)第一九三八号事件の債権差押命令を取り消す、債権者の債権差押命令の申立てを却下する」というにあり、その理由は別紙「執行抗告理由書」及び「抗告理由補充書」記載のとおりであり、これに対する相手方の反論は別紙(一)記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

1. 一件記録によれば、相手方は債権者として別紙(二)記載の商品(以下「本件商品」という)を破産会社に売買したとし、その売買代金債権を被担保債権及び請求債権とし、さらに、破産会社が別紙(三)記載のとおり第三債務者に対し本件商品を転売したとして、その転売代金債権を被差押債権として、動産売買による先取特権に基づく物上代位権の行使として、昭和六一年一〇月一七日原裁判所に対し本件債権差押命令の申立てをなし、その申立ての認容をえたものであること、昭和六一年一〇月一七日破産会社が大阪地方裁判所より破産宣告を受け、抗告人が破産管財人に選任されたこと、右申立て及び本件抗告手続において、相手方は担保権の存在を証する文書として、相手方から破産会社に対する本件商品に関する請求書、納品書、売上元帳、相手方の下請加工先の本件商品を第三債務者に対し出荷した旨の証明書、第三債務者の本件商品を破産会社に発注し、受領した旨の証明書、相手方社員の前記本件商品の売買、転売に関する報告書、破産会社の昭和六一年八月二五日発信の相手方に対する本件商品の注文ファックスの写、右下請加工先の相手方から別珍防災品原反を預り本件商品を完成し、破産会社に納品し、さらに破産会社の依頼で第三債務者に納品した旨の証明書を提出していること、が夫々認められる。以下抗告理由に沿って検討する。

2. 民事執行法一九三条一項によれば、本件のように動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使のときは、先取特権の成立と物上代位権の発生を証する文書として、動産の債権者から債務者に対する売却事実、債務者から第三債務者に対する右売却動産の転売事実の双方を証する文書の提出が必要であるが、その文書の種類には制限がなく、かつ単独の文書に限られず複数の文書を総合して、執行裁判所の自由な心証により、右両事実を認めるに足るものであれば足りるというべきである。けだし、右証明文書を例えば作成名義人が債務者であるもの、或いは、当該動産売買契約を記載した内容の文書等に制限的に解釈すべき法文上の根拠に乏しく、かえって、民事執行法が担保権の実行手続に債務名義制度をとらず、執行抗告において担保権の存否に関する実体上の主張を許しており、また、同法一八一条一項四号、同一九三条一項が同一八一条一項一号ないし三号のように文書の種類を限定することをせずに、提出文書の証明力判断を裁判官の自由な心証に委ねていると解されるところに照らせば、前示のとおり解されるのである。右に反する抗告人の主張はとりがたく、前項認定の相手方の証明文書の提出方法自体に欠けるところはない。

3.(一) 抗告人は本件商品に関する別紙(二)の相手方主張契約は別珍防災品原反四二反、二二八二米の加工請負ないしは請負の性質のみをもつ製作物供給契約である旨主張し、たしかに甲一ないし四号証には「縫製」と記載されてはいる。しかしながら、他方、一件記録によるも、別紙(二)の寸法規格で特定される防災幕製品の製作過程において相手方特有の技術を要する等、契約当事者が右過程自体に特段の意味を付与していたり、相手方自身自らが製作の義務を負っていたことはいずれもこれを認めるに足る資料はなく、かえって、一件記録によれば、第三債務者が昭和六一年八月二六日に破産会社に対し前原共同福祉施設に納入すべき別紙(二)記載寸法規格の別珍防災幕合計二一枚を発注し、これを受けて同月二五日及び同年九月一〇日付で破産会社が相手方に縫製済完成品である別紙(二)記載の寸法規格の別珍防災幕二一枚の注文をなし、相手方はこれに応じ、所有の別珍防災原反四二反二二八二米を自己の下請加工業者である大橋装飾に右寸法規格の防災幕二一枚の縫製製作を請負わせ、完成品である右防災幕二一枚を同年九月一三日付で破産会社宛に納入伝票を発行し、別紙(二)の本件商品二一枚は前記大橋装飾より後記(三)の転売先が納入すべき前原共同福祉施設へ、相手方の指示、ついで破産会社の依頼により搬入されたこと、前記大橋装飾の本件商品の製作は相手方との契約に基づくもので、破産会社との契約に基づくものではないこと、が夫々認められる。

右認定事実関係によれば、別紙(二)記載の本件商品たる防災幕完成品合計二一枚に関する相手方、破産会社間の契約は、その対象品が動産であり、供給業者たる相手方自らが製造義務を負うものではなく、しかも売買契約における目的物はそれが特定されていさえすれば契約時に現存するものであることを要せず将来発生する物であることは差しつかえないのであるから、むしろ縫製過程よりも右本件商品の所有権移転に重点があり、通常の売買契約と解される。なお、仮に抗告人主張のように右本件商品に関する契約が所謂製作物供給契約とみるべきものとするも、それは製作面において請負契約、所有権移転面において売買契約の混合契約と解され、しかも、全体についても有償契約として売買契約に関する法規が準用される(民法五五九条)ものである。しかも相手方、破産会社間において、本件商品の代金につき動産売買の先取特権を認めるべきかの関係は、混合契約における商品の所有権移転にかかわる側面の問題であって、民法三一一条六号が動産売買代金に法定担保としての先取特権を付与する立法趣旨は、売主は通常代価を受取るべき条件付で買主の資産中に売却物件の所有権を移転するのであるから、買主の一般債権者との公平の原則に基づくものであるところ、この立法趣旨は本件の如き動産製作物供給なる混合契約における右側面においても同様にあてはまるというべきであるから、動産売買の先取特権の規定が当然適用ないし準用されると解すべきである。

したがって、本件差押命令申立書、同命令中の担保権等目録(別紙(二)に同じ)2欄中の「(数量)別珍防災品四二反二二八二米」の記載(以下「原反数量表示」という)は売却対象たる前記防災幕二一枚に必要な原反の所要数量を記載したものに過ぎず、本来、不必要な記載であって、それ自体、売却対象物の表示でないことは前認定のところより明らかであるから、右原反数量表示の存在は、前認定の趣旨の別紙(二)の売買若しくは製造物供給契約、同目的物件、同契約に基づく代金債権(被担保債権)の各表示の瑕疵をもたらすものではない。

よって、右に反する抗告人の主張はとりがたい。

(二) ついで一件記録によれば、別紙(二)記載の契約により破産会社に売却された本件商品たる防災幕二一枚はそのまま、別紙(三)記載のとおり、破産会社から第三債務者に対し転売されたことが認められる。

なお、本件差押命令申立書、同命令の差押債権目録(別紙(三)に同じ)中の原反数量表示は、その趣旨が前示のとおりであるから、右差押債権の発生原因たる転売契約、同目的物件、同代金債権の各表示の瑕疵をもたらすものではなく、この点の抗告人の主張もとりがたい。

4. 以上のとおりで、本件差押命令の申立ては、その申立て要件である、動産売買に基づく先取特権及び、物上代位権の各発生(存在)事実が、文書により証明されたというべきであって、抗告人主張のように、債務者破産時の物上代位権の行使を制限的に解すべき根拠も乏しいので、右申立ては認容すべきものである。

したがって、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安達昌彦 裁判官 杉本昭一 三谷博司)

<以下省略>

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